〜庶民と大名・将軍の食卓〜
江戸時代初期(1603〜1700年頃)、日本の食文化はまだ近世の入り口。流通も未発達で、身分制度が生活全般に色濃く反映されていました。食卓の風景にも、はっきりとした身分の違いが表れていたのです。
庶民の食事:一汁一菜が基本
庶民の主食は、玄米や麦飯でした。白米は贅沢品。おかずは、**味噌汁(出汁は煮干しや干し椎茸)**に、漬物や煮物などの「一汁一菜」が基本。タンパク源としては、小魚や豆腐が使われました。塩分は多めで、保存食が中心。
ごはん(主に玄米や麦)
味噌汁(煮干し出汁+大根・芋など)
漬物(ぬか漬けなど)
たまに干物や煮豆

大名・将軍の食事:華やかなる食膳
一方、武家や上級武士、大名や将軍たちの食事は桁違いに豪華でした。白米は当然で、おかずは、刺身・煮物・焼き物・汁物など、多品目が並ぶ『本膳料理』の形が取られ、見た目の美しさも重要視されていました。
白米
鯛の刺身、鰹のたたき
魚の塩焼きや煮物(昆布や酒で味付け)
吸い物(松茸など季節の素材)

当時の農作物:自然と共に生きた暮らし
農作物も、地域と季節に左右されていました。以下が、当時一般的に食されていた作物です。
米(玄米)
大根・白菜・蕪・里芋・ごぼう
なす・かぼちゃ・きゅうり
小豆・大豆(味噌・醤油)
竹の子・わらび・ぜんまい(山の恵み)
中でも大根や白菜は保存が利くため、冬の常備菜として重宝されました。
食は身分を映す鏡


食事は、生きるためのもの以上に「身分を表す象徴」でもありました。
一日二食から三食へ~豊かさの象徴
しかし、260年も続いた江戸時代は、その間に、徐々に農業技術や流通が活発に発達することで、庶民の食生活も徐々に豊かになっていきます。江戸時代の中期以降は、世界一栄えている町が江戸でした。
江戸の庶民も、のちに白米を食べるようになり、一日二食、三食へと、時代と共に食生活も変化していきます。江戸の病と言われた「脚気」も、白米を食べている江戸庶民に多い病気でした。江戸城のお殿様や上級侍たちは、栄養のあるおかずも食べたでしょうが、下級武士や長屋住まいの庶民は、白米をたらふく食べても、まだ、江戸時代の初期~中期ごろまで、おかずもパターンが決まっているもので、栄養は偏っていたようです。
江戸時代の中期は、もっとも江戸の華やかな文化が花開いた時代でもあります。それに伴い、江戸庶民も娯楽を楽しんだり、一日三食の食事をとる庶民も増えてきました。
(中期のお話はまた、次回…)
(English)The Class Divide in Early Edo Period Meals – Commoners vs. Daimyo and Shogun
In the early Edo period (1603–1700), Japan’s food culture was still in its developmental stages. The rigid class system strongly influenced daily life—including meals. What appeared on the table reflected one’s status.
Meals of Commoners: The Simple “Ichiju-Issai”
For the average townspeople and farmers, the staple was brown rice or barley mixed rice, with a simple side dish and miso soup. Known as “ichiju-issai” (one soup, one side dish), meals were modest, relying heavily on pickles, vegetables, and preserved foods. Protein came mainly from small fish or tofu.
Cooked brown or barley rice
Miso soup with daikon or taro
Pickled vegetables (e.g. nukazuke)
Occasionally dried fish or boiled beans
Meals of Daimyo & Shogun: A Lavish Spread
By contrast, the meals of the upper class—samurai, lords, and shoguns—were much more elaborate. White rice was standard, and meals included multiple courses: sashimi, grilled dishes, simmered dishes, and clear soups. The presentation was just as important as the taste.
White rice
Sea bream sashimi, bonito tataki
Grilled or simmered fish with kelp, sake
Clear soup with matsutake mushrooms
AgriIn cultural Produce of the Era
Food depended on local and seasonal agriculture. Common crops included:
Rice (mostly brown)
Daikon radish, cabbage, taro
Eggplant, pumpkin, cucumber
Adzuki and soybeans (for miso & soy sauce)
Bamboo shoots, warabi, zenmai (wild edibles)
Root vegetables and preserved foods were essential for surviving the winter months.
Meals as a Mirror of Social Class
Food in the Edo period was not just sustenance—it was a reflection of class and status. Over time, however, as agricultural and transportation systems improved, even commoners began to enjoy a more varied diet.
In the next post, we’ll dive into Edo kitchens: from commoners’ cooking spaces to the grand kitchens of castles.
江戸時代初期の庶民の食生活を深掘り
庶民の食卓の特徴
江戸時代初期の庶民の食生活は「質素だけれど滋養豊か」。白米はほとんど口にできず、玄米や麦飯が主食でした。おかずは季節の野菜を中心に、保存のきく干物や豆料理。味付けは塩・味噌・醤油(まだ普及初期)などシンプルでした。
当時、もっともポピュラーだった4つのメニューと作り方をご紹介します。
1. 玄米ごはん
材料:玄米、水
作り方
玄米を数時間〜一晩水に浸す
火にかけて、弱火でじっくり炊きます。
「はじめ、チョロチョロ、中パッパ、赤子泣いても蓋取るな」
どこかで、一度は聴いたことがあるフレーズだと思います。
はじめは、弱火でチョロチョロと炊き始め、中がぐずぐずぼこぼこしてきたら、強火にして,じゅわーっとしてきたら、最後に、もうひとつかみの藁をかまどにくべて、火からおろしたら、じっくり蒸らすのが、美味しいごはんの炊き方でした。
当時は、それほどバラエティに富んだ食卓ではありませんから、ご飯は、今より、たくさん食べたそうです。庶民生活では、少ないおかずで、ついつい、ご飯を食べすぎてしまうこともあったのかもしれません。そのため、よく噛んで食べるのが、当時の知恵でした。
現代でも、「ご飯は、よく噛んで食べなさい」と、ついつい、お子さんに言ってしまうことがある…というお母さんもいることでしょう。
2. 味噌汁(大根・里芋入り)
材料:大根、里芋、煮干し出汁、味噌
作り方
煮干しで出汁を取る
大根や里芋を加えて煮る
火を止めてから味噌を溶かす
(旬の野菜を入れ替えて楽しむのが一般的でした)
3. ぬか漬け(きゅうり)
材料:きゅうり、ぬか床
作り方
きゅうりを洗う
ぬか床に漬ける(半日〜1日)
取り出して切って食べる
(江戸の庶民にとって漬物は欠かせない保存食でした)
4. 煮豆(小豆や大豆)
材料:小豆(または大豆)、水、醤油、砂糖
作り方
豆を水に浸す(数時間〜半日)
火にかけ、柔らかく煮る
醤油や砂糖で甘辛く味付け
(祭りや特別な日のご馳走でもありました)
まとめ
江戸時代初期の庶民の食事は、見た目は質素ですが、『米・豆・野菜をバランスよく取り入れた「自然食」』でした。シンプルな食材に手間をかけて暮らしていたことがわかります。


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